[PR]口が臭う人の共通点…:臭いが見える対策は?
僕と彼女が初めて会ったときのこと。
彼女は僕に言ったんだ。
私の中に悪魔がいる、と。
彼女はベットの上に座り、白い服の人と話をしていた。
白いシーツが掛かり、周りも白い色が目立って
清潔さを感じるよ。
たまに僕の近くをよぎる人には同じ白の服や白衣を着た人もいて、
この部屋には何故か白という同じ色がある気がするんだ。
どうしてなんだろう?
僕にはさっぱりわからないや。
この部屋にいるのは彼女だけじゃなくて、若い女性やおじいさん、
さらには足に白い何かを付けて、
天井の白いひもに足をつるされている男性もいた。
この男性は寝るときもあの格好のままでなんだ。
他の人は普通に寝ていられるのに、あの人はおかしな格好で寝ているんだよ、
朝から晩まで一日中。
なんで変な格好で寝ているのかな?
僕が考えていると、入り口からある声が聞こえてくる。
「今日もお父さんとお母さんが来たぞ。調子の方はどうだい?」
声を出したのは彼女のお父さんだ。
その隣にお母さんもいて二人一緒に彼女の前へと来たんだ。
「うん、大丈夫だよ。今は気分が良いの」
「そうか、ちゃんと良い子にしてたから今日の気分が良くなったんだな」
彼女が頷くとお父さんが頭をなでる。
その隣でお母さんが白い服の女性と話をしていたけど、
僕にはあまり聞き取れない。
この部屋は彼女のように知り合いが来る部屋なんだ。
知り合いにも色々いて、今のようにお母さんとお父さんが来たり、
おじいさんの孫が入ったりしてこうやって話をするんだ。
あと、食べ物を持ってくる人もいるんだよ。
お見舞いって言うみたいで、食べ物を置いた後に話をすることみたい。
「それにとなりにこの子もいたから、たくさん話が出来て楽しかったんだ」
彼女が僕の方へと指を向けて、お父さんに僕の存在を示してくれた。
「へぇ、この子か。うちの娘の話に付き合ってくれて有り難う、感謝するよ」
彼女のお父さんは僕が世話をしてくれていると思っているみたいだ。
でも、僕には世話をしているって感じはないね。
世話ってよりも友達と話す雰囲気に近いかな。
彼女は僕と話すときに嬉しそうに話してくれるから
僕も嬉しくなって話したくなってくるんだよ。
つまり、僕は仕事のような世話をしているってよりも
僕自身から喜んで話しているって感じだね。
だから本当は僕の方が感謝したいけど、
でもお父さんは感謝したいようだから素直に受け取っておくよ。
ありがとね。
お父さんは僕のそばに寄っていって頭をなでる。
その後に僕へと視線を向けてから彼女に向けた。
「かわいい子だな。お父さんに名前を教えてくれないか?ひまり」
彼女の名前はひまりで、年は7歳。
ひまりちゃんの話では名前に漢字という名の字で表現するようで、
万の里を明るく照らす灯と書いて、灯万里との漢字になるんだ。
その字がひまりちゃんの持つ名前の漢字で、
僕への説明はちゃんと紙に書いて説明してくれたから
字の姿もよく分かるよ。
何の意味のある漢字かもひまりちゃんが説明してくれて分かったけど、
どうもひまりちゃんには難しかったようで、途中で詰まっていたけどね。
「名前ね、あるにはあるよ」
「やっぱりな。どんな名前だい?」
それと一緒に説明してくれた言葉があったんだ。
その時のひまりちゃんはちょっとだけ暗く、
ちょっとだけまじめな顔をして僕に話してくれた。
僕にはよく分からないけどその言葉はこんな感じだったよ。
私の中に悪魔がいる
悪魔について分かっていることはひまりちゃんがここに来た理由が
その悪魔を追い出すってこと、ただそれだけ。
悪魔って言うと黒い羽を付けて真っ黒な体で
何より悪そうな顔をしていることは僕にも分かっている。
ひまりちゃんが僕に絵本を読んで聞かせているときに
説明してくれたからね。
「ふふっ、お父さん聞きたいんだ〜?」
ひまりちゃんはお父さんにとても嬉しそうな顔をして近づけて、
答えをじらそうとする。
「なんだい、そうもったいぶるんじゃないぞ」
悪魔がどんなことをするかということは僕にもよく分からないけど
いて良い存在でないことは分かっているよ。
だから、この言葉を聞いて僕はとても不安になったんだ。
ひまりちゃんにどんな悪いことをするのかって。
いたずら程度だったらまだ許せるけどそれ以上のことだったら。
と思っていたのももう前のことだけど。
「おしえな〜い」
そう言ってひまりちゃんはベットに寝て、
かかっているかけシーツに体を包み隠した。
お父さんはそれを見てひまりちゃんの元に寄っていったんだ。
「なっ、ひまり!お父さんに教えないとはどういうことだ?!」
「や〜だ〜よ〜。ひまりとこの子の秘密なんだもん」
さっきの不安がもう前のことなのは
ひまりちゃんがここにいて今のように楽しそうにしているからなんだ。
僕と話をしているとき、それと白い服を着た人と
僕の話をするときは決まって笑顔なんだよ。
悪魔がいるって言っていたのにその本人が楽しそうにしてるのは
おかしいけど、あの時の雰囲気からみると悪魔のことは
本当なんだと思う。
それでも笑っているのは、その悪魔がひまりちゃんにとって
不安になるまでのことではないんだよ。
ひまりちゃんは不安になってない、だから僕も
気にするまでではないってことなんだ。
お父さんはひまりちゃんに答えてもらおうと肩を叩いていた。
そこで、さっきまで話していたお母さんがお父さんへと声をかける。
「お父さん、ちょっと良い?」
「ひかり、聞いてくれ!ひまりがお父さんに隠し事をしているんだ!」
お父さんはひまりちゃんのお母さんにすがるように脇の下の掴む。
掴んだと思えばすぐさま激しくお母さんを揺さぶり、
お父さんは感情を訴えた。
「もう・・・ひまりの秘密主義も忘れたの?いつものことでしょ」
それに応じてお母さんは声をかけると共にお父さんの肩を叩いた。
なんだか欲しい物が買えない子供と
そのわがままに話だけ付き合う親を見ているかんじだよ。
「それよりも看護師さんの話をあなたにも聞いてもらいたいの」
「ひまりちゃんのことでお話があるので、お父様にも」
さっきまで話をしていた白い服の女性がお母さんの後ろで声を出す。
それを聞くとお父さんは咳払いをしてから、
その女性の元へと行って離れたところで話を始めた。
それとともにかかっていたシーツからひまりちゃんは顔を覗かせる。
ひまりちゃんも興味あるみたいだね。
聞こえる言葉は“ひまりちゃん”だけ、それ以外がうまく聞き取れなかったんだ。
「お母さん、お父さんは何を話しているの?」
ひまりちゃんも頭をかしげていて、聞き取れていないみたいだ。
「いずれお父さんから話すと思うから、それまで待ってちょうだい」
ひまりちゃんに話をするってことは僕も聞くことなら出来るのかな。
小さい声で話してお父さんとひまりちゃんだけの会話になることもありえるから、
僕が聞こえないってこともあるかもしれないよ。
後でひまりちゃんから話してくれるのは分かっていても今すぐ聞きたいよ、
気になる話は出来るだけ早く聞きたいからね。
お母さんの言葉から少しして、お父さんは女性に頭を下げた。
そうするとお父さんはひまりちゃんの方へ振り返ったよ。
話が終わったんだね。
僕は話の内容が気になっていたけど、
内容は良い話だってことが分かったんだ。
だってお父さんはとても嬉しそうな顔で振り返ったから
いい話が聞けたってことがすぐ分かったよ。
「ひまり、いい話が聞けたんだ」
「え、なに?」
お父さんがベットに両手を付けて、腕を柱にして体を支えた。
お父さんの顔が嬉しい顔をしていたから
ひまりちゃんの顔も嬉しい顔へと変わるんだ。
「近々、ひまりが退院できるんだってさ」
ひまりちゃんの顔が笑みであふれた。
「え、本当?!嘘じゃないの?」
ひまりちゃんがとっても喜んでいて僕もなぜだか嬉しくなったよ。
“たいいん”って言葉がよく分からないのにね、なぜだろう。
「そうだ、ひまりの体調が良くなっているから、
この病院からもうそろそろ出られるんだぞ」
「ということは・・・」
ひまりちゃんが僕に視線を送るとともに、
自分を覆うシーツを振り払って手を伸ばしたんだ。
そして僕はひまりちゃんの手に収まり、お父さんの視線へと運ばれる。
「この熊のぬいぐるみと一緒におうちへ帰れるの?!」
「そう、ひまりの話し相手とも一緒に帰るんだぞ」
この言葉で僕もようやく“たいいん”って言葉が理解できたんだ。
たいいんはひまりちゃんがこの部屋から出られること、
そしてぬいぐるみである僕もひまりちゃんの家に一緒に行けるという
約束を果たす言葉でもあったんだ。
約束って言っても僕はぬいぐるみである以上、
相手に聞こえるように喋ることは出来ないから、
話を聞くだけに終わるのはいつものこと。
でも、僕だってこうして考えることだって出来るし
話で思ったことを言えるんだよ、誰にも聞こえないけど。
そんな僕だけれど、ひまりちゃんには聞こえなくても伝わっていて
僕の気持ちを分かった上での約束が出来たんだよ。
ここでお母さんの口が二人の話に反応した。
「でも、いいの?このぬいぐるみはこの病室にあった物じゃない?」
お母さんの言葉は大体あっているかな。
元々僕はひまりちゃんが来る前からいたから
病院の物にはなると思うんだ。
でも、ひまりちゃんのおうちに行くのは良いんだよ。
「それは大丈夫です。このぬいぐるみは誰かによって寄付されて、
欲しい人がいたらもらってくれるようにとその誰かが言ったんです。
私は寄付してくれた人については分からないのですが・・・」
僕が言おうとした説明を白い服の女性が言ってくれた。
「そう・・・。ひまりが連れて行きたいなら・・・まぁいいかな」
あれ、お母さんがちょっと暗くなったように見えたけど、気のせいかな。
ともかく、ひまりちゃんと一緒におうちに行けることを喜びたいから
気にしない方がいいよね。
お母さんの言葉の後にお父さんもひまりちゃんも同じ言葉で
僕がおうちへ行くことを許してくれた。
「いいじゃないか。ひまりが退院するのに話し相手だけ残しては
両方がかわいそうだぞ」
「お父さんも言ってるから連れて行くよ。この子だけ残すなんて−」
突如ひまりちゃんが咳をして話がとぎれちゃった。
ぬいぐるみの僕には分からないけど、ひまりちゃんたちは
口に変な物が入ったときにそれを出すため、たまに咳をするんだって。
体に対して支障はない不都合な出来事ってひまりちゃんが説明してくれたんだ。
「だいじょうぶか?ひまり」
「ゲホッ、ゲホッ・・・大丈夫・・・ちょっとむせただけだよ」
お父さんは背中をゆっくりとさすると、ひまりちゃんは言葉で反応する。
言葉の後にも2回ほど咳をしたけど、
背中をしばらくさすってもらっていたから咳はやんだよ。
「ありがとう、お父さん。もう気分も良くなったよ」
「良かった良かった。じゃあ、そろそろ頃合いだから・・・」
視線をお母さんの方に変えたお父さんは頷いた。
そうするとお母さんも頷いた後に言葉を言う。
「今日の用件はひまりの様子を見に来ただけだから、そろそろ帰ろうと。
じゃあね、ひまり、退院まで頑張るのよ」
「うん!早くこの子と帰りたいから頑張るよ!」
笑顔を見せて頷いたひまりちゃんにお父さんとお母さんは手を振る。
それで、二人は白い服の女性に礼をしてから部屋を出て行った。
お母さんとお父さんが帰ってから僕はひまりちゃんと話をしていた。
どんな話かって言うとひまりちゃんのおうちのことについてだよ。
僕も聞くのは初めてで、どんなおうちかなと
前から疑問に思っていた所なんだ。
ひまりちゃんの話では外から見るとそれほどでもないけど、
内側は外見以上に広いということ。
おまけにこのおうちを買うために
お父さんは趣味のつりを止めて建てたとても苦労のこもったおうちなんだって。
この家が建った後はお父さんが一時間も家を目の前で
泣いたってひまりちゃんから聞いたんだ。
ひまりちゃんのお父さんって子供みたいだね、泣き虫みたいだから。
それで今も話をしているんだよ、内容は僕の置かれる場所について。
「どこが良いかな?」
僕は今、ひまりちゃんと一緒のベットの上に置かれていた。
僕の目の前にはひまりちゃんが座っていて、さらに僕らを挟んで
ひまりちゃんの部屋の図が書かれた紙が置かれている。
ちゃんと僕も考えられるように見られる位置に置いてもらったんだ。
でも僕が考えたって聞こえる言葉には出来ないから、伝わってはいても
困るときはあるんだ。
例えを言うと今の状況の時。
「君が言葉をしゃべれたら一番良いのになぁ・・・」
どの場所が良いかを僕から聞けないことで、
ひまりちゃんの顔はやや難しい顔となっていた。
僕の言葉その物はひまりちゃんには伝わらないで、
会話は全てひまりちゃんの言葉だけしか聞こえない。
思いが伝わっているとは言っても直接言葉で伝わっているわけではないし、
伝わってない部分だってちょっとはあるよ。
今のように詳しいことを聞きたいときにこれは良くあること。
それで話しているときにひまりちゃんが僕と違う考え方をしているときは
今のひまりちゃんと同じ気持ちになるんだ。
僕も言葉をしゃべれたら一番良いのになぁ・・・
そう思うと、ほんのちょっと悲しくなった。
こんなに近くにいるのに。
どうして僕の言葉は伝わらないんだろう。
と、悲しみに浸かっていた僕は急に動いちゃったんだ。
「でも、しゃべらなくたって君のことはちゃんと分かるんだよ」
急なことで動かされたこと以外は分からなかった。
そこでひまりちゃんの声がいつもより大きく聞こえたから
何が起きたかは分かったんだ。
僕はひまりちゃんに抱き寄せられたことが。
「きっと今の君は悲しんでいるよね、考えていることは何故か分かるんだ」
それは分かっているよ。
今までの話は聞こえなくても分かってくれたから、
嘘じゃないことは僕が一番分かるんだ。
僕は真上へと運ばれ、ひまりちゃんの顔に真正面と向かい合う。
「考えていること全てではないけどね、君が誰にも理解されなくたって
私は君の気持ちが通じているから、悲しまないでね」
言葉を聞いて、僕はひまりちゃんがいることに嬉しさを感じた。
僕はひまりちゃんが来るまで誰も話しかけられることもなく、
ただこの部屋に置かれていただけだったんだ。
それが好きか嫌いかで言えば、僕だけ大きな違いを感じてとても嫌だった。
周りの人と姿が違うことは分かっていたけど、姿に大きな違いを感じなかった。
大きな違いは僕だけが言葉をかけられなかったことなんだよ。
僕だけに声がかからない、そうすると
僕がいるってことが分かってくれないの?と思う。
その時に僕がいるのにいないと自然に考えてしまう。
だから、僕だけに声がかからないとひとりぼっちになった気がして嫌だった。
そこで僕を分かってくれるひまりちゃんがやってきたんだ。
僕にいっぱい話しかけて、分からない言葉も説明して、
それで僕を理解してくれるひまりちゃんはとても優しかった。
おかげで僕はひとりぼっちから抜け出せて、嫌なこともなくこうしている。
ひまりちゃんは僕を救い出したいい人で、そして言葉を聞いて安心できる人なんだ。
「それにこれから私たちは一緒に住んで、ずっと話し合うんだから。
いつかきっと君の思いが届くよ、今よりもっと詳しい思いが」
喜ぶ僕にもう一つ嬉しい言葉が届く。
え?それって本当?
本当にもっと詳しい思いが分かるようになるの?
「看護婦さんから聞いたんだけど、私たちが生まれたての頃は声が出ても、
会話なんてとても成り立たないんだって。今の君と似たような状態なんだ」
そうだね。
僕も声は出ていてもそれが人には聞こえない、会話が成り立ってないんだ。
「それから言葉を覚えるのは言葉を喋る大人が
たくさん赤ちゃんに話しかけるからなんだ。
あ、赤ちゃんって言うのは私たちの生まれたての頃の状態を言うの」
「分かるかな、私がずっと君に話しかければ
いつかは君の思いが言葉になって聞こえる日が来るんだよ」
僕はさっきから喜んでばかりだ。
一緒に行けることが決まる。
言葉が通じることが分かる。
そして、そのためにやることが分かる。
今までの中でこんなに嬉しくなったのは初めてなんだ。
それも目の前にいるひまりちゃんのおかげだよね。
改めてひまりちゃんがいることのよさが分かった。
だから、言葉で意志が通じるようになったら
絶対にありがとうって言わなきゃと同時に思ったんだ。
ひまりちゃんが言葉を言い終えると、僕は部屋の図を表す紙の上に置かれる。
「私はね、君がいなかったら家に帰れる状態まで頑張ってこれなかったんだ。
君のおかげで悪魔を追い出すことに頑張れたの、ありがとね」
「でも言葉だけのお礼では足りないから、君も言葉を言えるようにすれば
お礼になるかなと思って私考えたんだよ」
そうなんだ。
ただ僕はひまりちゃんと一緒にお話をしていただけなのに
お礼されちゃって良いのかな?
感謝するのはこちらなのにどう受ければ良いか分からないよ。
とりあえずひまりちゃんも笑顔で言ってくれたから
ここは受け止めておくべきだね。
ありがとね。
ここで、部屋の入り口から白い服の女性が入って
ひまりちゃんに声をかけた。
「ひまりちゃん、アレを持ってきたわよ」
この声を聞いてひまりちゃんはあわててシートをつかみかかった。
つかんだと思うとすぐさま引っ張り、自分を覆い隠して縮こまる。
僕と部屋の紙はそれに巻き込まれてしまい、
ひまりちゃんと一緒に隠れることになった。
「もう、ダメでしょ。隠れたって
一部始終見ているんだからばれているわ」
女性が言ってもひまりちゃんに反応は見えない、
とはいっても見せようとしないと言った方がいいかな。
僕も聞こえているんだから、ひまりちゃんも聞こえているのに。
もうシーツ取った方がいいよ。
僕がそう思ったのをきっかけに、ひまりちゃんは遅い動作で
シーツを払う。
もちろんわざと遅くしていて、女性にもそれはばればれ。
「ゆっくり退けても何も効果はないんじゃない?ここまで良くなったのは良いけど、
ちゃんと薬を呑まなきゃいけないでしょ?」
シーツはひまりちゃんの手でどかれ、僕も女性の視界に入るようになる。
僕は周りを確認すると、女性はひまりちゃんとの距離を縮めていて、
その女性から視線をそらしてひまりちゃんは口を開けようとしている所だった。
「だってあの薬・・・苦いからいや」
話に出ているこの薬はひまりちゃんの話を聞くと苦くて嫌なんだって。
苦いってことが分からない僕はひまりちゃんの呑んだ顔で
嫌な物だと理解が出来たよ。
嫌ではあったけども何とか呑めたのに、どうしてか今日は
いつもより嫌がっているんだ。
僕もその苦い物を呑みたいかなと思うけど僕自体呑めないし、
本来はひまりちゃんが呑むべき物だから呑めないんだよね。
「退院が近いから呑まなくて良いなんて考えちゃダメよ。
まだまだあなたの中の悪魔を追い出すのにこの薬は不可欠なんだから」
なぜ呑む必要があるか、それは女性の言ったとおり悪魔を出すためだ。
ひまりちゃんだって悪魔を追い出したいのは分かるけど、
今薬を呑まないと追い出せないと思うからダメだよ。
ここで、女性の目が嫌がり顔のひまりちゃんではなく僕に移される。
「この熊さんも一緒に帰りたいと思っているんじゃないの?
そうだとしたら一刻も早く追い出すために、薬は呑むべきでしょ」
その言葉に嫌な顔から困り顔に変わったひまりちゃんは僕へと視線を移す。
僕も一緒に帰りたいんだよ。
だからここは頑張って呑んで、ね?
僕が言葉に出した後、しばらくひまりちゃんは僕を見つめていた。
言葉は伝わってはいないけど、きっとひまりちゃんなら
今の僕の気持ちの大部分が理解できるでしょ?
ひまりちゃんだって僕と一緒に帰ることを嬉しいって言ってたんだから、
薬を呑んでって言うのが分かるはずだよ。
僕は再び伝わらないが絶対に伝わる言葉を言う。
その後も僕への視線が固定したままだった。
でも、固定していたのもわずかだった。
ひまりちゃんは頷いて言葉に示してくれたんだ。
「・・・わかった。君も私も帰りたいから頑張って呑むよ」
うん、えらいよ、ひまりちゃん。
今まで頑張ってあと少しで追い出せるんだ。
退院までもう少しなんだから頑張って。
「何度も呑んでいるから、最初よりは楽に呑めるでしょ。
あと、薬を口に入れたらすぐ一気飲みすることを忘れないで」
女性から水の入った容器と紙の上に置かれたいつもの薬が出され、
目にしたひまりちゃんはそれに手を伸ばした。
最初は手が止まったけど、その後すぐに手を伸ばし始めて
先に水を受け取る。
ここで僕は考えたけど、この薬をどれだけ呑めば
ひまりちゃんのおうちに行けるだろう?
退院はもうそろそろってことだから、
これだけ呑めば良いわけではないけど、呑む回数は少ないはず。
でも、それはこの女性だけが知っていることだから、
聞くにしてもひまりちゃんに頼めないからできないか。
やっぱり僕には分からないなぁ。
僕が考えている間にひまりちゃんは水を口にしようとする所まで進んでいたんだ。
どれだけ呑めば分からない今ではこんなことを気にしても仕方ないかな。
だから、そろそろ帰れるってことを理解して僕は待つしかないね。
水の入った容器を口に付けようとひまりちゃんは容器を運ぶ。
口に付いた容器は傾いて、ひまりちゃんの口に行こうとした。
だけど、ここで不都合が生じちゃったんだ。
「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!」
ひまりちゃんがまた咳をしたんだ。
水を口に入れる寸前だったから水をこぼすことはなくて良かったよ。
でも、もっと気にするべきことはひまりちゃんにあった。
「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!」
さっきの咳はそれほど激しいわけでないのに、今回は激しい。
それに今の咳は口を手で押さえて、背中を丸めているところが
さっきまでと違う。
何故か分からないけどとても辛そう。
それと同時に僕も何かが怖くなったんだ。
「随分と激しいわね・・・大丈夫?」
女性が心配して声をかける。
対して未だひまりちゃんは咳をするばかり。
それで女性はひまりちゃんのより近くに寄ろうと進んだんだ。
この女性も慎重で気を遣うような動きだから、
僕はなんだか不安になってきたんだ。
ほとんどしない咳だけど、ちょっとだけ珍しいだけだよね?
体調は大丈夫だよね?ね?ひまりちゃん。
僕はそれを聞きたくてその言葉だけを言い続けたんだ。
その言葉をかけていた途中であることが起きた。
僕は容器が壊れた瞬間を見た。
ひまりちゃんが水の容器を下に落としたからだ。
床に落ちた容器は高い音を放って砕けた。
周りの視線が集中した。
その次に咳がやんだと分かる。
女性は止まったけど、気遣いを続けながら再び近づく。
ひまりちゃんはやんだ瞬間に僕へと視線を向ける。
ひまりちゃんは口をすぐに開けた。
言葉を言おうとしていることが分かった。
でも、その言葉は聞き取れなかった。
言葉を出そうとした瞬間、ひまりちゃんが倒れてしまったからだ。
僕にはそれがゆっくり見えた。
実際にはない人を吊した糸が突然切れて。
望まない落下をするように倒れて。
生きる力が無くなったように見えてしまった。
「どうしたの!!?」
女性はものすごい大きな声を出したから、僕だけでなく周りの人も驚いた。
ひまりちゃんの元へ寄ると手の平へとすぐさま視線を向ける。
「血が・・・血を吐いていたの?」
手の平に赤い液をこぼしたような模様が塗られていた。
他に手の平だけでなく、白いベットやシーツにも
散ったように塗られてもいたんだ。
女性はすぐさまベットにあるボタンを押すと、ベットから少しの間だけ音がした。
その後にひまりちゃんの手首に触れる。
「・・・大丈夫。今先生を呼んだから、何とかしてくれるわ」
ひまりちゃんは声をかけても寝たように反応しなかった。
僕にはどうしてこんなことをしたかが分からない。
あんな人がしないような倒れ方をしたかが。
「山崎さん!!ひまりちゃんが大変なの!
ナースコールは押したけど、緊急事態だから早く先生を!」
女性は出入り口を通った同じ服を着る女性を大声で呼び止める。
「え!?何でこの子が・・・?と、とにかく急いで呼んでくる!」
声のかかった女性は足を速めて来た道を戻る。
この時僕は怖くなっていたものがようやく分かった。
悪魔の仕業だ
もうこれ以外僕は考えつかなかった。
でも何故今になってするの?
ひまりちゃんはとてもいい子なんだよ。
この前だってひまりちゃんのお友達を分かりやすく説明してくれたんだ。
僕に何の迷惑もかかってないんだよ、むしろ嬉しかったのに。
悪魔にだって悪いことをしたわけでもないんだよ。
そんなひまりちゃんにどうしてこんなことをするの?
話している間に白く縦長の服を着た男性が
ひまりちゃんの前にいたことを僕は気づかなかった。
「あの病気は間違いなく完治間近なんだ・・・それが何故?
とりあえず急いでこの子を運ぶぞ」
男性の言葉の後、ひまりちゃんは運ばれていった。
その後、中の悪魔が出て行くよう僕はひまりちゃんに頑張ってと言い続けたんだ。
肝心のひまりちゃんはいないけど、僕の考えは言葉で通じているわけではないから
絶対に届いているって思っていた。
そして届いたら退院して、今までやっていた通り一緒にお話をしたいよ。
それから僕の言葉の内容が分かるまで話したら、
その時は必ずありがとうって言葉を伝えるんだ。
大丈夫だよね?伝わっているからひまりちゃんは僕と一緒に帰れるよね?
そうやって頑張ってと言い続ける合間に退院後の話も交えて
ひまりちゃんを励ましたんだ。
たまに部屋にいる人で僕へと話しかける人もいるけど、
それでも僕はお礼を言わずにひまりちゃんちゃんへの励ましを止めなかった。
僕はずっと励まし続けるつもりだった、でもそれを長く続ける必要はなかったんだ。
ひまりちゃんのお父さんとお母さんが来たときまで僕はやり続けたよ。
そう、二人が男の人から話を聞いて、話が終わったと同時に膝を崩して。
そして二人が泣くまでは。
二人の涙を見た後、僕は続ける必要がないと分かった。
ひまりちゃんへの思いはもう届かない、それにもう戻ってこないから。
その後の僕はひまりちゃんと一緒に燃やされて天国へと行くみたいなんだ。
ひまりちゃんと言っても今いるのは人形のようになったひまりちゃんだけで、
一緒の箱に入ったとき声をかけてみたけど、本当に何も反応しないんだ。
反応がないから、答えもしない、話しかけることももうない。
それでまた僕はひとりぼっちになってしまった。
とても嫌な気持ちにはなったけど、でも今度は天国で一緒になる話だから、
またひまりちゃんは声をかけてくれる。
だから長い時間も嫌な気持ちになっていることはないんだ。
それで、今の僕は全面が真っ白の部屋に置かれていた。
ちょっと前までひまりちゃんと一緒に入っていて、
周りがぼやけたと思ったらここにいたから、きっとここは天国だと思うんだ。
部屋と言っても僕に映る物全てが真っ白の色しか無く、
小さい部屋かもしれない、それか壁が全然ない床だけの空間ってことも
考えられるから僕は分からない。
見えるのはそれだけで、僕はひとりぼっちでいる。
場所を確認した後、僕は周りをもう一回見ることにした。
なんにもなく白い空間だけ、そして僕以外は誰もいない。
周りのことが再確認できた僕は言葉を出したい気持ちになる。
ここだったら、辛いことを言っても誰かに聞こえることはないよね。
僕だって辛いんだ。
ひまりちゃんともうお話しできなくなったなんて辛すぎるんだ。
どうして悪魔はひまりちゃんに悪いことをしたの?
それもとっても優しくて良い子なひまりちゃんに。
悪魔に悪いことをしたわけでもないのに。
こんな酷い仕打ちをひまりちゃんにするなんて酷いよ。
お母さんとお父さんも話を聞いたときからずっと泣いていたんだ。
きっと一緒に帰れるんだ、何事もなくこれから生活できると思っていたんだ。
それなのにひまりちゃんを奪って、お母さんとお父さんも泣かせてしまうなんて。
お母さんとお父さんも悪いことをしてないのに、こんなことなんて酷いよ。
僕だって同じ気持ちなんだ。
一緒に帰りたかったんだ、これからおうちで一緒に話したかったんだ。
そして、ありがとうって言葉を伝えたいんだ。
それがいけないことなの?僕がやっちゃいけないの?
そういうことをするなんて酷いよ。
ずっと姿を見せないなんて酷いよ。
ぼくたちから逃げるなんて酷いよ。
酷いことをする悪魔なんて酷いよ。
言いたいことだけ言うと急に周りが静かになった。
言って何の反応もなく、話で反応するような人や物もないから
誰からの言葉も周りの変化もなかった。
僕が言い続けた言葉はだれにも伝わっていない。
それがほっとした気持ちでもあったけど、逆に辛くもなった。
こんな事を言っても悪魔が聞くわけでもなく、
何の反応をするわけでもないからだと思う。
辛い原因が何となく分かると、僕の辛さはさらに重なった。
そこで僕はとある声を聞くことになる。
「あ・・・こんな所にいたんだ」
小さな子供の声が上から聞こえた。
同時に僕の目に小さな靴と脚が留まる。
「何でここにいるか分からないけど」
声は女の子で聞き覚えのある物。
そして、僕が待ちわびていた子が出す物なんだ。
「また、会えたね」
ひまりちゃんの声だ。
僕が上へと視線を上げるとひまりちゃんが見えて、
姿も確認できた。
やっぱりひまりちゃんだ。
僕はようやくひとりぼっちから抜けられるんだ。
ひまりちゃんは膝を下へと降ろして
僕を抱き上げようと手を伸ばす。
「会えたのは嬉しいけど」
僕へと触れる前に手が止まる。
そういえば、声が嬉しそうには聞こえないよ。
ひまりちゃんだって僕と会えなくて寂しかったんじゃないの?
僕が疑問すると、ようやくひまりちゃんと僕以外の存在に気がついた。
ひまりちゃんの隣の大人の存在に。
その大人の人はひまりちゃんのお父さんよりも大きく、
白い服を身に付けていたんだ。
でもこの人は頭と顔は白い布でまるまる覆われていて、
それと手と足の先までも白一色だから
身につけたと言うよりも体の色を隠すように着込んでいたと言うべきかな。
その白い人はひまりちゃんへと手を伸ばした。
最初は何でこんなことをしたか分からなかったけど、
ひまりちゃんがその人の手を触れようとして
僕はようやく状況をつかむ。
「ごめんね・・・お別れみたい」
小さい言葉が出る前にどんな言葉が来るかは分かった。
僕は白い人の手をつかんだひまりちゃんを見たからだ。
それが示すことは僕なんかより
白い人と一緒にいることがいいとの選択の意味だから。
僕の視界は手と手が触れあう瞬間しか見えなかった。
そんな、ここは天国でしょ?
一緒にいれるって話聞いたんだよ?
それなのに僕だけひまりちゃんの所へ行けないなんておかしいでしょ?
ねぇ?ひまりちゃん返事をしてよ?
「あなたの魂は人形だからです。人間の魂とは違うところへ行かないといけません」
突然、後ろから男性の声が聞こえて僕は驚いた。
驚いたと思うと僕は白い手ですくわれ、上へと運ばれる。
その時、ひまりちゃんは白い人と一緒に背を向けようとしていた。
待って、僕よりもあんな人と一緒にいたいの?
そんなわけないでしょ?
ひまりちゃんは僕と一緒の方が楽しいはずじゃ?
背を向けた瞬間、ひまりちゃんは僕を見る。
僕へと向けた顔だけで僕はひまりちゃんのことが分かったんだ。
その顔は確かに悲しんでいた。
だから、ひまりちゃんも僕と一緒に行きたいことがそれだけで分かる。
それだけじゃない。
それと同時に別れるしかないことも、その顔で分かった。
僕は何も言えなかった。
もう、僕が何を言ってもどうも出来ないんだ、そう理解できたから。
ひまりちゃんは僕を見た後、背を向けてそのまま歩き出す。
「何か言いたいことは?」
僕を持ち上げた男性が僕に向けて言う。
それでも僕は黙っていた。
「無いようでしたら、あなたを連れて行きますので」
男性を中心に僕は半回転し、ひまりちゃんを視界からはずした。
こうなると僕だけではひまりちゃんを視界に入れることは出来ない。
もう会うことも出来ない、話すことも出来ない、これでもうさようならなんだ。
悪魔さえいなければと思ったけど、そんなことを今更と思ってすぐに忘れた。
僕は忘れると同時に一つの事を思い出す。
最後までありがとうって言葉が伝えられなかったなぁ。
これからいっぱい話して言葉が伝えられるようになると思っていたのに。
もう、それも出来ないんだよね。
でも、伝えられなくても、もう最後なんだから。
ひまりちゃんには聞こえなくて、届くことはないけど。
ありがとうだけ言ってもいいかな。
僕の視界にひまりちゃんはいない。
言葉なんて無意味でもあったけど、きっと言えないと辛くなるから。
だから、ひまりちゃんに届かなくても言わないといけないんだ。
ひまりちゃん今までありがとうね。
僕は言えたけど、肝心のひまりちゃんは伝わらない。
それを示すようにひまりちゃんの言葉はちょっとも聞けない。
ありがとうって言葉その物は聞こえてないんだ。
それでも僕はなんだかすっきり出来た気分だった。
きっとこれからの辛さは
言わなかったときよりも小さいからと思えたからだ。
僕を持ち上げた男性は静かに歩き始める。
ひまりちゃんと反対方向へと行き、
僕とひまりちゃんの距離は遠くなっていった。
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